「童貞---どうもこいつがいけない厄介者なんだ。」
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。
「雪国」川端康成 作
いやあかっこいい書き出しですね「夜の底が白くなった」なんてなかなか書けないですよ・・・なんていうのもおこがましいというか俺なに偉そうに書いてんだあほかと思ってしまうくらい、超有名な、1968年(昭和43年)ノーベル文学賞受賞作家の川端康成の作品「雪国」の書き出しの段落です。*1
タイトルの「童貞・・・」も氏の作品「月」の冒頭の一文です。
童貞--どうもこいつがいけない厄介者なんだ。惜しくはない荷物なんだが(・・略・・)それに、女があの荷物に何がはいっているんだろうと珍らしそうに眺めたりすると、ちょっと顔が顔が赤くなるではないか。(・・略・・)・・・道端の犬にはやりたくない気持ちがするではないか。(・・略・・)---こんなことを彼は考えている。
「月」川端康成 作
「月」は、短編小説集「掌の小説」に収められている一編です。「掌の小説」はまさしく「手のひら」ほどの長さの小説が100作以上収められているそうです。
私の手元には大昔(小学生の頃)に買ってもらった川端康成集があり、そこに「掌の小説」12作品が収録されていました。
書き出しが面白いので(というか書き出ししか読んでないふしもある。)いくつか抜粋します。
ある醜い--と言っては失礼だが、彼はその醜さゆえに詩人になったにちがいない。その詩人が私に言った。
「写真」
レモンで化粧することが彼女の唯一つの贅沢だった。だから彼女の肌は新鮮な匂いのように白くて滑らかだった。彼女はレモンを四つに切り、その一切れから一日の化粧水を搾り出した。(中略)男の目を忍んで、乳房や腿に果実の汁をすり込んだ。
「貧者の恋人」
私の家の厠(かわや)の窓は谷中の斎場の厠と向かい合っている。
「化粧」
「ごらんなすって下さい。こんなになりました。どんなに一目会いたがって居りましたことか。」
あわただしく彼をその部屋に導いて来て、妻の母が言った。死人の枕べの人々はいち時に彼を見た。「死に顔の出来事」
二十四の秋、私はある娘と海辺の宿で会った。恋のはじめであった。
「日向」
どうでしょう。この後の展開に興味がそそられます。結構エロいものもあります。
中学生だった私は、ちっちゃい文字で書かれている文学全集に「思わぬところにエロ発見」と喜んだにちがいありません。
(全作品読んだわけではありませんが)一押しは「死に顔の出来事」です。ストーリーはタイトル通りです。妻の死に際に間に合わなかった夫が妻の実家で妻の死に際と対峙する話です。オチもあります。「あるある」的な要素もあります。ほんの少しグロいです。エロはありません。
ところで「童貞」の彼ですが、結構モテキだったようで、いろいろお誘いはあったものの、結局荷物は持ったまま月に向かって叫びます。
「ああ! 月よ! お前にこの感情を上げよう」
題名の「月」が最後の最後に出てきます。タイトルおち?
*1:ちなみに私は「雪国」を読んでいません。